平和は混乱の後訪れます『ダークナイト』

クリストファー・ノーラン監督&クリスチャン・ベール主演による「バットマン・ビギンズ」の続編。ゴッサム・シティに現れた史上最悪の犯罪者ジョーカー。バットマンブルース・ウェインは、協力するゴードン警部補や新任地方検事ハービー・デントらと共にジョーカーに立ち向かうが……。
ダークナイト : 作品情報 - 映画.com

 2008年公開。『バットマン ビギンズ』に続きシリーズ二作目。
(公式サイト http://wwws.warnerbros.co.jp/thedarkknight/mainsite/

 すごく期待して観たのに、その期待値を軽く上回る完成度だった。強盗が銀行を襲うシーンから始まるこの作品、終始インパクトが強くかなり惹き付けられるのがジョーカーという悪役キャラ。はじめのシーンで衝撃的な登場をした彼は完全にカリスマで、見た目も行動も態度も発言も目的もぼくにはキャラクターとして完璧に見えた。

 敵も味方もなく自分のやりたいことをやるというのは悪いことじゃない。
「支配しようとすることがいかにバカげてるか そこを教えてやりたい」と語る彼にぼくは深く共感する。支配するから反発がある。バットマンが現れたからジョーカーが現れる。ジョーカーはつまり自由の象徴だった。だからこんなに魅力的なのだ。やっぱり悪役は自由でないと。

 と、ジョーカーだけでもうずいぶん魅力的な作品なのだけど、脚本も当然のように素晴らしい。ジョーカーを倒して終わりじゃないところがこの作品の奥深いところで、ジョーカーは中盤で一回警察に拘束されてしまうのだけど、安堵感は一瞬だ。拘束されたジョーカーが隠していた計画によって、ここからが本題とばかりに話はねじれていく。終わってみるとドラマチックな話だった。

 ただ、ジョーカーがデントに「ハーイ」って言うシーンは笑ってしまった。病院が爆発するって予告してみんな避難した後の静かな病院にジョーカーが現れてデントと話をするというところなのだけど、別にもう誰もいないんだから必要ないのにああいうことやっちゃうのもジョーカーの面白いところだ。とはいえ、そのシーンでジョーカーは格好に見合わず真剣な調子でいいことを言っていた。上に書いた「支配しようとする〜」もそうだし、「俺は混乱の使者 何が混乱を起こす? 恐怖だ」のくだりも良い。

 たぶん、ジョーカーは正義に見捨てられ大人や周囲の人間に虐げられて傷ついた人間だったんだろう。だから正義が信じられない。秩序が気に食わない。正義は弱い者を守るというより秩序を保つのが仕事であり、秩序からはみ出た人間に容赦しない。彼が語る口元が裂けた時のエピソードは一定していなくて本当かどうか怪しいけれど、その傷によって秩序からはみ出してしまったのはまず間違いないと思う。

 最後にもう一度、ジョーカーのセリフを。
「お前も知っての通り"狂気"は—— 重力のようなもの 人はひと押しで落ちてく」