ヒーローは何処にでもいる『ダークナイト ライジング』

クリストファー・ノーラン監督による「バットマン ビギンズ」「ダークナイト」に続くシリーズ完結編。「ダークナイト」から8年後を舞台に、ゴッサム・シティを破壊しようとする残虐な殺し屋ベインと戦い、謎に包まれたキャット・ウーマン/セリーナ・カイルの真実を暴くブルース・ウェインの姿を描く。
ダークナイト ライジング : 作品情報 - 映画.com

 2012年公開。『バットマン ビギンズ』『ダークナイト』に続くシリーズ三作目。
(公式サイト http://wwws.warnerbros.co.jp/batman3/

 今回の敵ベインは前作のジョーカーに比べてかなり地味だ。見た目もそうだし戦い方もバットマンとの対決じゃ殴り合いしかしてない。でもその分迫力はあって「力だけがすべてだ」とでもいうかの如き威圧感は凄まじい。実際バットマンは終盤まであらゆる面でベインに負けっぱなしだったし、特に自分のアジトに乗り込んできたバットマンを圧倒し、かつて自分の生まれた奈落へたたき落とすところまではかなりの絶望感を与えることに成功していた。

 それなのに終盤、奈落から這い上がってきたバットマンとの対決のときなんかは全然そんな印象はなく、それまで見せてた圧倒的な力の差はなんだったのってくらいにあっさり負ける。しかもその直後、ベインの格が決定的に下がる事実が明かされる。これだけはちょっとがっかりした。これだけの作品を作れるのだからもっと良いエピソードを持ってこれたはずだと思う。

 そんなわけで敵キャラには不満が残るけれど、謎の女セリーヌは完璧だった。あのコスチュームになる必要あったのなんて疑問は無粋である。女性は自分を少しでも美しく見せたいものだ。まして「1度悪に染まったら2度と抜け出せないの」と嘆くセリーヌはその美貌を使わないわけにはいかなかったはずだ。その苦悩の結果があのコスチュームだったのだ。あの姿はたしかに艶かしかったではないか。

 というのは半分冗談だが、こんなに雰囲気ぴったりの女優さんを見つけた時は監督も嬉しかっただろうなと思う。「あなたの魅力は財布の中身にあって、下着の中身にあるわけではないわ」などセリフに皮肉が効いていて良いし、いつ裏切るかわからない緊張感も心地よい。ミステリアスな魅力だって格好だけのものではない。この作品の華は間違いなくセリーヌだろう。

 最後に主人公であるブルース・ウェインの話をしたい。シリーズを通して描かれているのは、彼が恐れを払拭する姿だった。この作品は、彼がバットマンではなくブルース・ウェインとして生きるためのひとつの区切りだったように思う。はじめからバットマンなんかやらなきゃ良かったという話では勿論なく、彼の場合バットマンをやることによってしか克服できないものだったのだ。グールの修行もレイチェルの死も奈落からの脱出も、目の前で両親を殺された子供時代に始まってバットマンになってからも抱き続けていた恐れを捨て去るために必要なことだった。それだけに一作目、二作目を観ずにこれを観た人はもったいない。この作品のラストをシリーズのエンディングとして観られないのだから。

 順番にシリーズを観てきた人にはおそらくわかってもらえるだろうと思うが、ぼくはこれを観終わった後、時間をおいてじわじわと感動がわきあがってきた。感動といっても涙を流すとかいう激しさはなく、いい話だったなあと体中に染み渡るような静かな感じだ。完成度の高いこのシリーズの終わりに相応しい、実に素敵なエンディングだった。