008 朝

 高架線の下の薄暗い道を歩いていた。路肩には数台のトラックが停まっている。運転席には背もたれを倒して仰向けになっていたりハンドルに覆い被さったりして眠っている人の姿。見慣れた光景。いつもと変わらない朝が始まっていた。

 寒い道を縮こまって進む。すぐ左手に見える公園で雀が鳴いている。彼らの鳴き声はアクセントだ。静寂を際立たせる。しずかで、平和な朝。それをぶち壊す甲高い声。

 制服を着た娘たちが世界を無視して笑っていた。知らずに前方を歩く彼女たちに近づいていたようだ。娘たちは三人で横に並んで道を塞いでいる。仕方がないからペースを落とし一定の距離を保って歩いた。

 何の前触れもなく、当り前のようにそれは起きた。停車していたトラックの荷台から大きな鉄板が滑り落ちてきて、姦しい娘たちの首を一人残らずはねたのだ。

 一瞬の沈黙の後、嘘みたいな悲鳴が響き渡った。ソプラノの合唱だ。

 悲鳴は道に転がった娘たちの生首が発していた。頭部を失った胴体の方は、新しい頭を真っ赤な首の根元からニョキニョキと這い出させて、何事もなかったかのようにまた姦しい話し声をたてて歩いている。道端の生首は悔しそうに悲鳴をあげ続けている。何かを察知して雀が悲鳴の元に集まりはじめる。よく見ると気の早い雀はすでについばみ始めていた。

 ぼくはそれを慎重に避けて歩く。また一日がはじまる。