昔の日本の日本ぽさ
町家の娘 妾のやうなお多福だと、将軍様がお笑ひになるだらうよ。
町家の下女 何、そんな事がございますものか。屹度江戸中の男が戀病にかゝって了ひます。
(「象」『谷崎潤一郎全集 第一巻』/谷崎潤一郎/中央公論社/昭和56.5.25)
谷崎全集はおとといから読みはじめた。小説を読むつもりでいたら戯曲が始まったから驚いた。谷崎が戯曲を書いてたなんて全然知らなかった。谷崎は元々好きだったから全集を読みはじめたのだけれど、改めて考えると谷崎の人間性も作家谷崎潤一郎としての経歴でさえよく知らない。代表作と呼ばれるものを幾つか摘んだだけに過ぎなかった。
お昼に読んでいたら、上に引用した部分が致命的にかわいくってここだけ何回も読んでほわあっとしていた。谷崎はこういうのをちょくちょく入れてくる。だから好きなのです。ほわあっとできるから。
でもこれを現代的に書いたら趣が失われてしまう。「お笑ひになるだらうよ」も「お笑いになるだろうよ」では違うのだ。漢字だって旧字体の方が良い(上では新字体に直している箇所もあるけれど)。百閒が旧字旧仮名遣いにこだわった気持ちもよく分かる。
下女の「ございますものか」「了ひます」も良い。身分の差がハッキリしていたのが良かったのか。敬語表現にもリアリティがあって好きだなあ。現代の敬語はたいして美しくない。現代敬語の優れた使い手が目に付かないだけかもしれないけれど。
やっぱり好きだなあ。昔の日本の日本ぽさ。