ふたつだけ

4・2 それは恐れた。単独でいる時に人は恐れる。そこで、それは考えた——「わたしと別のものが存在しないのに、わたしは何を恐れるのか?」と。まさに、それから、それの恐怖は消え失せた。実にそれは何を恐れるべきであったのであろうか? 恐怖は、まことに第二のものから生じる。
(ブリハドアーラニヤカ・ウパニシャッド 第1章)

 何が好きなんだったかな。何がしたかったんだったかな。そんなことをぐるぐる考えていた。生まれる前から死んだ後のことまで。ぐるぐるぐるぐる。

 生まれる前のぼくから「自信を持ちなさい」と言われた。
 死んだ後のぼくから「覚悟をしなさい」と言われた。

 これは最悪のファンタジーだ。死ぬまでの間おだやかに生きられればよいだけなのにそうはいかない。いや違う。生きるとか死ぬとかそういうものに一切関わらないでいたかった。しかし言い直したところで何も変わりはしない。悪魔は相変わらずぼくの身体に住み着いている。一心同体だ。そして虚無性の毎日はくり返される。

 はい、おしまい。これは気分性の悲鳴だ。ぼくではない。虚無性の毎日もくり返されない。思い出したのだ。ぼくは独自性、唯一性を感じるものが好きなんだった。ぼくはそれになりたかったんだった。自信を持てば、覚悟をすれば、ぼくはいつだってそれになれることを知っていたはずだった。それだけで十分だったのだ。