穴埋め問題

「——閣下、地上の楽園とはこの広大な世界のなかにただひとつ存在する、自然が全く誤りを犯さなかった小さな場所です。それは神が生きながら埋められる前に創造した、最後にして最高の作品です。それは全ての罪と全ての栄光を受け入れ、それらを少しずつ永遠に変えていく場所です」
「神は生き埋めにされたのか?」
「わたくしたちは毎日、地中を掘り進んで神に近づいております」
「到達すれば何が起こる?」
「それはつまり、始まりに到達したということです」
「何の始まりだ?」
「終わりの始まりです」
(白い果実*1ジェフリー・フォード山尾悠子金原瑞人・谷垣暁美訳/国書刊行会/2004.8.21)

 「終わりの始まり」という表現はもう見慣れてしまってもはや陳腐に感じてしまう。そこまでがすごく良かったためにそこだけが心残りなのだ。むしろ「新世界の始まり」とかの方が、何のひねりもない分ひっかからなくてよい。かといってそれも凡庸だということでそこに入るべき表現を探すことにした。

 これはぼくが勝手に楽しむためのゲームである。したがって作者への改善案の提出などというさしでがましい意図はまるでない。ぼくがこの作品に対して何かを改善できるとは思わない。そもそもまだ最後まで読んですらいないのでここの場面が後にどういう意味を持つことになるのかもまったく知らない。だからそういったものは度外視する。言ってしまえば単なる穴埋め問題である。引用したこの部分だけを切り取って考えたときに、最後の鍵カッコに収まる最も印象的な言葉を見つけたいのだ。

 ではさっそく無造作に始める。

 孤独の始まり? 無垢の始まり? 歴史の始まり?

 ——そう悪くないがどれもピンと来ない。

 地下世界の始まり?

 ——好きなんだけど含みがなさすぎる。

 少年愛の始まり?

 ——意味深だけどルール上続きは考慮しないから後にすべての説明をぶん投げるようなやり方も違う。

 最終章の始まり?

 ——ひねりはないけど割といい線いってる気がする。メタ的なメッセージでもありうる。

 このように言葉を手荒く取っ替え引っ替えしたパズル的自己誘導の末に反則みたいな言葉を思いついた。反則じみたぼくの回答は下記の通りです。

「何の始まりだ?」
「あなたの始まりです」

*1:

白い果実

白い果実