ロマンスの神様

 どうやったらこの暑さの中で雪女を保護できるだろうか。個人的には夏はわけもなく好きなのだ。だけど思うのは雪女のことである。彼女は生き延びねばならない。巷では夏は怪談の季節ということになっている。科学的根拠だの論理的整合性だのを殊のほか気にする人間たちが暑さにやられて頭が弱りだしている間に楽しむのが怪談というわけだ。雪女としても怪談というカテゴリからはみ出しているつもりはないだろう。しかし雪女は冬の季語なのだ。夏ではない。

 弱体化してしまっている夏に登場するのは雪女としても不本意だろう。そりゃコンビニでアイスも買ってしまうだろう。やたらフレンドリーな店員に「手が冷たいですね」「冷え症なんです」なんて心にもない会話までさせられて、それでアイスを買ったはいいけど外は暑くて出られないので適当な本を立ち読みなんかしてるとまたさっきの店員が話しかけてきてつらい。「こんな暑いなか仕事なんかしてられるか」という気持ちもあるが、ビデオカメラに映り込むのが得意な若造どもの活躍ぶりが各種メディアから飛び込んできて劣等感に苛まれる。広瀬香美の歌を聴いて「目立つにはどうしたらいいの」なんて歌詞に共感してみたり、「わたしだって冬が来れば……!」などと言ってなんとか夏を耐え忍ぶということも飽きるほど経験しているが、いざ冬になると人間たちの頭から怪談なんてものはすでに消え去っていて、ということはつまり語られる側は存在できないということだから、結局活躍することはできない。それならつらい夏が来る前に死んでしまおうかと思ったことも一度や二度ではないが、踏ん切りがつかないまま今年もまた暑くなってしまった。そんなことを考えてたらすっかりメンタルがやられてしまって、ここ最近ついに精神科の世話になったとかならないとか。

 ここまで書けばわかったでしょうか。

どうやったらこの暑さの中で雪女を保護できるだろうか。」

 この一文がすでに詩でありました。