蝶の舞う永遠

「たとえば」

向かい合うぼくらの目線の高さを一対の羽が舞っている。

「この蝶がいつか力尽きることをあなたは確信できるの? こんなに優雅な羽模様なのに地に落ちるなんて本気で信じているの? もし私がこの蝶に『永遠』って名付けたらあなたも少しは永遠を信じられるかしら」
「そうかもね。だけど、せっかく名付けたとしても少し目を離せばたちまちいなくなってしまう。そうしたら永遠を信頼するための根拠が消えてしまうよ。それとも捕まえるつもり? 『永遠』を」
「捕まえるなんて簡単よ」

躍起になる彼女の手をすり抜けて、蝶は鱗粉を散らす。付かず離れず、彼女をからかっているようにも見える。『永遠』は逃げているのではなくて踊っているのだ。

「無理だよ。捕まえられないって。だって君は永遠より短い世界の住人だ。捕まえられるはずがないんだよ。だから、その限りにおいてなら永遠を信じてもいいよ。つまり、君に語られうる程度の永遠でないなら、という意味だよ」

——だから『永遠』を捕まえないで。

思った瞬間、蝶は彼女の口に吸い込まれていった。噛み砕く音が、かすかに口から漏れている。得意げな顔を徐々にしかめさせて、やがて飲み込んだ。飲めない牛乳を飲む時みたいに目をつむって。

「あんまりおいしくないのね、『永遠』って。目の前をひらひらしてるのが一番だったわ」

なぜだか突然、すごくいとおしく感じて、衝動的に彼女の口の中をなめた。はじめてのキスは奇妙な味だった。

「味覚で感じる永遠って本物っぽくない?」

笑顔が無邪気で、羽が生えたらすごく似合うだろうなって考えた。その後のことにまで思いを巡らせたところで「永遠ってすごく官能的だ」と、ぼくは結論づけた。