1376 虚無思想研究 第一巻・第一号

■循環論証の新心理概要(1) 古谷栄一
公理哲学に対する反論というか、対立する立場ですよという姿勢を見せているだけの文章で、論の中身についてはまだ何も書かれていない。

 

■ふらぐめんた 武林無想庵
非常に良かった。辻潤が自分に似ているといった通り、同じ気持ちで読める。人間性が近いんだろうなと思う。

 

■十二階が折れた 西村陽吉
西村陽吉という人は聞いたこともなかったが、この「十二階が折れた」は結構よかった。目次を見た時点では何かしら奇を衒ったタイトルなのかなと思ったが、あらゆる知識と理性の突端が折れてしまったことを、震災によって浅草の十二階の先端が折れたのに例えていたのだった。浅草の十二階というのはよくわからないが、なにかしらランドマークタワーのようなものがあったのだろうと思う。その直後の文章が良い。

いつまでこの状態が続くか? そして遂に人間もポキリと頭だけ折れてしまった、首なしの幽霊が白昼の銀座を横行するようになるか? それは俺の知ったことではない。

買いそびれてしまっていた辻潤『ですぺら』を安く見つけて悩んだが手に入れたというだけの話なのだが、震災のごたごたや人間の浅ましさにうんざりしていそうな気分で語られていて良い。

 

■ニヒリスト隻言 尾山放浪
短い文章のなかで、下記ベンジャミンからの引用らしい文章がひときわ輝いて見えた。尾山さんのお気に入りだそうで、英文の状態でよさそうと思ったけど、翻訳にかけてみたらちょっと微妙な日本語になった。それが指している内容は別に変わらないから良いんだけど、言葉選びのセンスがあまりないなあ。自動翻訳に言うことではないか。

I cling to nothing, stay with nothing, Am wed to nothing, hope for nothing

DeepL翻訳:何もないところにしがみつき、何もないところにとどまり、何もないところに嫁ぎ、何もないところに望みを託す。

 

■こんとらぢくとら 辻潤

明日のことを思い煩う勿れ——キリストは彼の生活を浮き草と同様に取り扱っていたのだろう。御心にまかせていたのだろう。

辻潤は何度も読んでいるので今更あらためて語ることもないんだけど、良いものは何度読んでも良いなと思う。彼は本当のことしか言わない。

 

<目次>
循環論証の新真理概要 古谷栄一
無の世界有の世界及び幻影の承認 村松正俊
無価値の狂想 新居格
阿毘達磨倶舎論の無我説に就いて 卜部哲次郎
☆ふらぐめんた 武林無想庵
無根拠礼賛 レオ・シェストフ
辰っちゃんの頁 内藤辰雄
☆十二階が折れた 西村陽吉
ふうふ 高橋新吉
モヂユヒン、クオレカリニ音楽会 夜の思い出、ファストの蚤 吉行エイスケ
☆こんとらぢくとら 辻潤・卜部哲次郎
☆自殺礼賛 荒川畔村
ニヒリスト隻言 尾山放浪

 

<備考>
大正14年7月1日発行。いわゆる第一次虚無思想研究の第一巻・第一号。