個人日誌2021/01/09
歯医者に行った。数ヶ月前に虫歯を治療してもらってからずっと通っている。まだいろいろとやることがあるらしい。抜く予定になっている親知らずもまだ歯茎の中に眠ったままだ。
今日は五十代くらいの女性が見てくれた。先の尖った器具で歯をガリガリと削り、時折「大丈夫ですか?」と聞いてくる。なぜかほとんど怯えたような声で聞いてくる。それがぼくの耳には「わたしこんなことして大丈夫ですか?」に聞こえてきて、そのたびに不安になる。
痛くもなかったし治療の腕はもしかしたらよかったのかもしれないけど、ぼくには判断することができない。ただ不安だった。客の分からないことやできないことを代行するのであれば、自信がなさそうに見えたらもうおしまいだ。この人もそれを知らないわけではないだろう。
でも自信がないときは自信がなさそうにしたいよな、とも思う。無理に自信ありげに振る舞えば嘘をついている気分になってばつが悪い。こういうところに社会との軋轢が生まれる。たとえば面接など。生きるのはしんどい。
自信があることだけやればいいんだろうけど、そんな恵まれた環境で生きていける人なんかいるんだろうか。実際には「何かやるなら自信がつくくらい練習しろ」と自分に言い聞かせるくらいが関の山だ。少なくとも今まさに自分の口の中をいじくり回している人に向かって言えるわけがない(自信のない人が自信のなさを指摘された時にパフォーマンスがどれだけ低下するのか、考えただけで恐ろしい)。
そんなわけで、ぼくはしばらくの間、早く終われと念じるただの置物になった。
治療が終わって会計待ちをしていたら、違和感のある会話が聞こえてきた。
患者 今日は起きましたよ
受付 念のためお電話したんですけどね
患者 七時には起きてました
受付 じゃあ二度寝もせず
患者 あ、二度寝はしました
この患者はいつも寝坊で遅刻している。そして今日も予約の時間に現れなかった。だから受付の人が電話で起こした。これが常識的な解釈だと思う。
でも患者が「七時には起きてました」などとドヤるのは不自然に思える。受付の「二度寝もせず」という発言が皮肉だったとしても違和感が残る。
納得できる仮説が思いつかないまま、自分の会計を済ませて外に出た。とにかく歯医者で聞くような会話ではないと思った。